interview

50周年記念インタビュー
中山 和道 先生

第49回日本消化器外科学会総会会長であられる中山和道先生に,
開催時の思い出やシネ企画へのこだわり,ご自身の持つ手術観や日本と国外の消化器外科の比較,
これからの消化器外科医のあり方まで,さまざまな内容をお話いただきました.
聞き役は日本消化器外科学会理事の山上裕機先生です.

第49回日本消化器外科学会総会

山上
先生,本日はよろしくお願いいたします.まず先生が会長をされた第49回日本消化器外科学会総会の思い出をお伺いできればと思います.
中山
第49回総会は,平成9年の2月20日と21日に福岡で開催させていただきました.当時はちょうど拡大手術が主流だったときです.結局,後には拡大手術が過大侵襲でQOLが悪くなるとか,過大侵襲のわりには成績が上がらない分野もありました.また,あの頃は画像診断も非常に進歩してきて,縮小手術という流れも入ってきて,腹腔鏡手術の演題もありました.そういうことで,私の担当した学会は第49回ということで、,第50回の節目を控えて,いままでの消化器外科の歩みをしっかり検証して、今後の50年への飛躍につなげていきたいと思いました.
会長講演としては,私は胆道外科をライフワークとしてきておりますので「胆道外科とともに ―胆道癌の臨床を中心に―」というお話をさせていただきました.演題数は1882題で,採用率は74.2%です.私は非常にまめにするほうで,抄録もかなり読ませていただいたのですが,私の望んだテーマに沿ったものが多くてどれも落としたくないと思うような,いい演題をたくさんいただきました.
この学会の目玉は,特別シンポジウムの「卓越せる手術手技と映像の美」ということ.私は手術が好きなものですからやはり手術をアピールしたいということと,自分の手術を撮っていろいろ見てもらって反省しながら伸びていこうという考えがありました.私は今から40年近く前,久留米大学フォトセンターの方と一生懸命,手術映像の撮り方を検討しておりました.それで,一番初めに出したものは今でも覚えておりますが,1975年の外科学会のシネ・シンポジウムに残りました.その次は珍しく,肝門部胆管癌で初めてのシネ・シンポジウムを出した.それは全部データがあります.こういったノウハウを使って,手術映像を撮って出したんです.当時撮られたもののなかで,映像としてきれいなものはほとんどがその一緒に撮影をした方が撮られているんですね.16か17の大学全部です.その映像を持って行って売り込んで教授になったという人もいました.
始まった頃のエピソードだと,手術がうまいと言われていたある先生がいまして,何か映像を出してくれと言ったら,その映像が血だらけで何も見えなかった.それで,あんなに手術がうまいと言われているが全然なっとらんじゃないかと言ったんです.そうしたら映像の撮り方を習いに来る方なんかも現れました.そういうことで,僕の映像を観ていろいろな方々が手術を見に来たんです.
二川俊二先生とは一緒に手術もしましたし,多くの先生方が何回も来てくださいましたし,若い木村理先生もまだ講師のときに来ました.そして,その当時に卓越せる手術手技の技術をもっておられる方5人を選び,その人の十八番の手術を撮ってもらって,司会が齋藤 洋一先生,特別発言を羽生富士夫先生にしていただきました.この企画は大好評で,良かったというメッセージがたくさん残っております.

卓越せる手術のために

山上
中山教授の手術は「卓越せる」と書かれていますが,そのような手術をしたいということは,外科医の道を志す皆が思うわけです.手術を卓越するために一番大事なことは何でしょうか.
中山
手術と言うと手技的なことに走りがちですが,私は部分ではなくトータルで手術を考えるのが大事だと思います.まず一番は診断で,しっかりした適応診断をするということです.そして,その病態生理なども十二分に把握して手術に挑むべきだと思います.最近では高齢者の方が多いので,やはり術後管理もものすごく大事です.私が恵まれたと思うことは,麻酔科,循環器,呼吸器のトップの人たちがチームを常に支えてくださっていたことです.そういった人の輪を大事にしていたので,合併症を起こしても名医がすぐに助けてくれる.それから補助療法.そして,最終的には術後のQuality of lifeまで.それらをトータルで考えるということが,いい手術に繋がるということでしょう.
例えばうまい手術というと手捌きが非常に流麗で短時間で,というイメージがありますが,私の手術の信条としては,時間がかかっても多少無駄があっても,丁寧な,確実な,出血しない手術をする.いろいろな本にも書いてきましたが,それに徹しています.したがって,私の手術を見に来てくれた方には,うまい手術とは言いませんが,出血しないで丁寧に丁寧にしているなという印象を与えたと思います.
山上
それが卓越した手術ということになるのでしょうね.プログラムを拝見いたしますと,サイトカインと癌の集学的治療といったテーマも扱われています.それから抗生物質,化学療法など,集学的手術を軸にして術前術後をトータルできちんとやるという先生のポリシーが現れていると思いました.
私は昭和56年卒ですが,そのときに学会でよく勉強したのは、まだ「シネ・シンポジウム」という名前の手術セッションで,私の先輩もフィルム・リールを持って学会に行っていました。今では、簡単にコンピューターで処理できるし画像も良くなっていますね.例えば先生がおっしゃった,きちんとしたプロに撮ってもらう.それを全国の輪として広げていって,そしてまた先生の手術を見学に来ている.私もそういう工夫が大事かなと思っております.
中山
ビデオはただ撮るだけではなくて,技術的に自分が見せようというところが正確に撮れていればいいと思う.自分のポリシーが生きている,哲学が生きていたらいいわけですから.ただ何となしに撮るのではいい画像は出ない.要するに頭を使って撮らないといけないと思います.撮ったものはすべてまだ持っていますが,非常に画像としてはいい.
山上
それから,総会では招待講演でJ. Belghiti先生を招聘されたり,Portal Hypertensionもテーマにされていますね.こちらはJ. Terblanche先生ですか.
中山
私の親友の谷川久一さんは千葉大学出身でTerblanche先生と仲良しで,ぜひに招聘して欲しいとの要望がありました.Belghiti先生も知人のご推薦とご紹介で呼びました.この方は今はフランスでナンバー1のドクターになっているようです.
山上
特別講演では神代正道先生が病理学をテーマにお話されていますね.早期肝細胞癌ですね.
中山
神代先生も久留米大学で私と一緒だった先生で,神代先生の標本の肝臓は全部私が切除したものです.高校が一緒で,優秀な方で仲良しです.また,佐藤壽雄先生の特別講演は,消化管外科に関するもので本当に名講演だった.素晴らしかった.もう涙が出るぐらい良かった.
山上
実は2018年の日本外科学会で宿題報告が復活しまして,私は膵臓の座長で,東北大学の海野倫明先生が宿題報告で術前化学療法の話をされたのですが,その中で佐藤先生の癌の手術の話がありました.やはりその当時から,手術で完全に治るものではない.術前の治療をどうするか,術後の補助療法をどうするかといったことを,きちっと書かれていたということです.
中山
私が昭和49年に,2回目に東北大学に習いに行ったとき,槙 哲夫先生も丁寧な手術をされていました.何回も見たのですが,本当に丁寧な手術でした.私はどちらかと言うと粗雑なほうかもしれなかったのですが,東北大学の槙先生やそういう方の手術を見て,非常にためになったですね.もちろん中山恒明先生の手術もよく見学させて頂き,福岡にもお呼びしたことがあります。この観点で若い人が,ベテランの方の手術を生で見るということは非常に大事なことですね.
山上
そうですね.実は私も名古屋大をはじめベテランの先生の手術を何回も見学に行っているんです.特に名古屋大の中尾昭公先生のmesenteric approachによる膵癌手術は自分たちは考えも及ばなかった方法なので、しっかり勉強しました.そういう経験がやはり大事ですね.
さて,総会の思い出としては他になにかございますか.
中山
結局,地方で開催するとたくさんの先生方がお越しになるんです.当時は、学会の運営費の苦労が少なく、同門会も協力してくれました。
山上
今は何が一番しんどいかと言ったら,学会の運営資金をどうするかですね.

日本の消化器外科のレベルの高さ

山上
先生の本学会に対する思いと言いますか,今までの先生の教授時代,現役時代と,どういうお気持ちでこの学会と対応されてきたかをお教え願いたいと思います.
中山
私自身あまり成績のいいことが少ない男ですので,一生懸命流れに沿って加勢してきたという感じです.世界の学会に参加することもその一つかと思います.European digestive surgeryやSociety for Surgery of the Alimentary Tract,これには全部出たのですが,これらは日本の消化器外科にあたります.一つの国で消化器外科だけをしていて学術的に非常に高度な学会というのは世界で稀で,本当の意味で私は日本消化器外科学会は素晴らしい学会だと思います.私は何回も海外の学会に行きましたが,ほとんどが親睦交流というのか,レセプションというのはすごいですが,実際に会場での討論などはpoorで,ただみんな集まって来てワーッというと親睦会という感じです.そういう意味では,一国の中で消化器外科の医者だけがこんなに集まって学術講演をしているレベルの高い学会は類まれで,世界にないですね.
それと,気になるのは専門医制度です.厚労省もやはり専門医制度を打ち出しましたね.その流れがありますし,僕自身も早くこれを制度にしなければいけないと思った.
それから,当時は1期ごとに会長が代わりますので流れが途切れ,学会のポリシーが滞るということがありましたので,早く理事長制度にしてもらいたかった.私自身も理事会で何度か言ったことがありますが,まだそこまでは熟していませんでした.現在においてはちゃんとしたこの制度が確立されて,素晴らしい学会に成熟したなと僕は思います.
山上
本当にありがたいお言葉で,今は専門医制度が非常に充実してまいりました.これからは専門医制度が少し変わっていきますので,前のようなかなり難しいものよりもややハードルが下がるのですが,その良し悪しはまた将来評価するということです.あとは,理事長制度で,先生が言われた一貫した流れが把握できています.先輩方の歴史の上に立って,われわれはなんとかここまで来れたかと思います.
今先生がおっしゃった国際会議で,私も最近はよくアメリカやヨーロッパやアジアへ行かせてもらうのですが,確かに日本消化器外科学会はレベルが高いですね.その高いレベルをいかにして国際的に知らしめるか.やはりこれには語学,英語という問題が出てきます.今は,森正樹前理事長の頃から順番に英語化をやっていっているのですが,まだまだ私自身も含めて英語力がpoorなんですね.だから,これからたぶん英語化が本当になったときに,あらためて日本消化器外科学会のレベルを国際的に発信できるのかなと,私自身も思っているところです.
中山
本当にそうです.ジョークで戦えるくらいの英語が必要ですね.英語一つではなく,フランス語とドイツ語はぜひ必要と思います.私がもし英語を話せたらすごいやつになっていただろうとみんなが言いましたが,本当言うと,中学生のとき英語の授業がなかった.一生懸命勉強しましたが,あまり上手にならなかった.しかし,一生懸命勉強して久留米大学で初めて,アメリカの学会のフェローになったり,齋藤洋一先生と海外に行って一生懸命戦いましたが,私は外科の人生で,語学がpoorだったというのがやはり致命的なものだろうと思います.
山上
日本人は本当にみんな,痛いほどそれは感じますよね.
中山
うちはドイツにみんな行って勉強しました.8か月かけてドイツを見て回ったのですが,松下先生や中山恒明先生のやった手術が世界中で一番うまいなと思いました.そういう点では語学勉強が大事で,少なくとも3年ぐらい,頭がフレッシュなときに外国に行って語学をがっちり学んできて,その人たちが日本のいいところをじゃんじゃん発信してくれることを期待しております.やはり私の英語はベリーベリープアです(笑).しかし一生懸命積極的にやったら,結局ACSに出してもらったりいろいろしてきたわけです.
山上
真面目に準備をして,内容がきちんとなっていたら欧米人もそれはきちんと聞くと思います.
中山
特に映像を持っていって発表したら,映像がとても評判が良かった.ACSとかみんな,ほとんど映像を持って行きました.

これからの消化器外科医へ

山上
最後に,これからの消化器外科学会、および若い消化器外科医へのメッセージをいただけますでしょうか.
中山
私はこれが一番大事だと思います.現代の若者の気質として,あまりきつい思いをせずお金を稼ごうという風習があるので,外科離れがかなりひどい.97年あたりがピークですよね.このころは1,500人とか,1,800人が1年間に入会しましたよね.それが今は450人とか400人だから,新入会員を増やすことが消化器外科の繁栄の一つの基礎になるかと思います.先生のところは何人入られましたか.
山上
今年は3人の入局だけでした.
中山
九大では、10人ぐらい入るんです.学生の講義というのは,本当に大事だと思う.私のときに入ってきたのは,中山先生の講義がおもしろいというので毎年十数人入ってきていたのが,今の久留米大は外科への入局は毎年2人や3人で,うちの出張先でも久留米大学は少ないです.そして,出張もいいところをかなり外してしまって,行くところがない.
山上
今は外科専攻医の制度設計は専門医機構がやっていますね.外科専攻医がたった1人しかいない県が2県あって,心外,呼吸器外,消化器外全てを入れて2人という県が確か3県ずつあります.だから,久留米も2~3人,和歌山が3人,まだこれでもましという笑うに笑えない話です.
しかし,これで本当にいいのかと常に思っています。また,私が入った頃は,外科は寝ずに仕事をするべきだと自分たちも思っていたし,実際にまだ患者さんが悪ければずっと泊まり込んでいた.患者さんを24時間看るということは当たり前だと思ってきました.今は働き方改革だと言って,それは実は悪だということになってきています.先生のときは,中山外科というのはおそらくスパルタで非常に厳しく指導をして,それでまた優秀な外科医が生まれてきたと思うのですが,今はそんなことをすればなかなか新入医局員が入ってこないんですよ.
中山
消化器外科に入ったらそう簡単にはやめません.しかし,その辺が大事で,評議員をはじめとして特に講義に携わっている方が消化器外科の魅力を十分に話される,要するに教育的な立場にある人が消化器外科の魅力を上手に学生にアピールして,学生を増やす努力が足りないと思います.私は昭和32年卒業ですから,その頃は脳外科も心臓外科も全く分からなかったから,脳外科も7年しましたし心臓外科の術者も経験しました.しかし,やはり消化器外科が一番おもしろいです.特に肝胆膵,膵頭十二指腸切除の再建などはとてもやり甲斐がありますね.そういうのを学生にいろいろな画像や映像でもしっかりアピールして,学生を上手に取り込んでいかないといけないと思います.
山上
どこかで入会が増えていかないと、消化器外科の未来はないですね.
中山
今から減っていったら下降線をたどりますよね.消化器外科医がいなくなれば発展も何もないですからね.その辺は一番大事なことだと思います,消化器外科医に興味をもってもらえるよう現役の先生たちにいっぱい努力してもらわなければいけないと思います.
山上
肝に銘じていきたいと思います.
今後,近未来的にこれからの消化器外科学に対してどういうことを期待されますか.冒頭に申し上げましたが,今の消化器外科のトレンドは,腹腔鏡手術がものすごく大きな潮流としてあるわけですが,今後,消化器外科学がどのようになっていくのか,また,どういうことを期待するのか.
中山
若い消化器外科の人にもし言うとしたら,手術手技も大事だけれども,先ほども言った診断や病態生理もしっかり勉強して欲しい.そして手術の場合には柔軟性,フレキシビリティが非常に大事です.また引く勇気というのは進む勇気以上に必要です.そういう点を若い人はしっかり勉強して,しっかりしたバランスの取れた外科医に成長してもらいたいと思います.言うなれば診断から術後管理,補助療法,患者さんのQOLまでトータルで考えられるバランスの取れた外科医になって欲しい.
山上
若い外科医の方への素晴らしいエールです.今日はいろいろなご教示をありがとうございました.
中山
ありがとうございました.