COMMEMORATIVE TALK

第73回日本消化器外科学会総会 記念企画
理事長鼎談

理事長鼎談

2011年 学会誌完全電子化,教育講座(eラーニング)開始

瀬戸
杉原先生,もう1つ項目がありまして,2011年から本学会はほかの学会に先駆けて学会誌の完全電子化を行いました.これは電子化の1つの代表例なのですけれども,ほかの会員管理といったことも全部電子化しています.あとは教育講座(eラーニング)を開始したということで,これもほかの学会に比べると本当に先進的な取り組みであったと思います.ちなみに,教育講座がeラーニングになったということで,教育集会をインターネット環境さえあればいつでも受講できるというのがうたい文句であった.これも進められたのは杉原理事長の時代ですけれども,いかがでしょうか.
杉原
教育集会を御経験になっている先生はここにかなりいらっしゃるかと思います.教育集会は一堂に会した2,000人以上の方を前に教育講演があるわけですが,まず一堂に会する2,000人以上の会場を確保するのが大変でした.それと,その会場があるようなところは大都会ですから,大都会の先生方は2日間のうち1泊するだけでいいのですけれども,遠くからの先生方は前泊,後泊しなくてはいけないという各個人の先生方のお金と時間を非常に費やす会でした.このeラーニングは,講義1個1個の時間を短くしてありますので,時間のあいたときに見ることができます.忙しい先生方の費用と時間の節約になるだろうということでeラーニングに切りかえていきました.
瀬戸
ありがとうございます.この取り組みは今は本学会だけではなくて,ほかの学会からもこれを使わせてほしいというような申し込みというか,リクエストがありまして,実はこれは本学会の所有物と言うのはよくないのですが,所有のものでありまして,ほかの学会で活用していただく場合にはそれなりの収入が本学会に生まれるということで,これも重要な収益事業の1つになっているということを申し上げたいと思います.

2014年 Society of Surgical Oncology 海外研修プログラム開始
2015年 総会スライド英語化,SSOジョイントシンポジウム開始

瀬戸
続きまして,森先生によろしいでしょうか.森先生の時代は,国際化ということに取り組まれました.2014年にSociety of Surgical Oncologyとの海外研修プログラムを開始されまして,2015年には総会のスライドを英語化しようということで,また今申し上げたSSOとのジョイントシンポジウムが開始されました.この国際化というのは本学会にとっては非常に重要なテーマですね.
そうですね.先ほど瀬戸理事長がお話しされたように,新入会者が500名前後で動いているということと,学会の参加者もほぼ横ばいで右肩上がりとはいかない時代になっている,そういう点が1つと,もう1つは,日本の消化器外科の手術成績が非常にいいと言われているのに,他国から学びに来る人が少ない,そういう観点を踏まえると,国際化でもっともっとアピールしていくことが非常に重要です.日本人だけではなくて,他国からの参加者を増やすということと,それによって日本の技術,手術手技のすばらしさを伝える,そういう観点から国際化は必須だということで取り組んでまいりました.
 その中で3つのことを中心にということで,1つは学会の英語講演を徐々に増やしていく,最終的には最低でも50%を英語化して,それを続けるかどうかを検討しようということで,まずは数年かけて50%まで持っていくというのがありました.
 それからもう1つは他国との交流,特に米国の学会との交流ということで,私どもが会員をしていたのがSociety of Surgical Oncologyという学会でしたので,そこと交流を持って,実際にお互いの学会でのジョイントシンポジウムと,それから若い人たちの交流を企画しました.  それからもう1つは,英文誌の発刊が非常に重要ということで,この3つに向けて取り組んで国際化を進めようということになりました.
瀬戸
ありがとうございます.こうやってお三方にお話をいただくと,その時代,時代で何が必要かというのが御理解いただけると思うんですけれども,国際交流という意味では,今,森先生からありましたSSO(Society of Surgical Oncology),それからIASG(Indian Association of Surgical Gastroenterology),これは山本先生が中心となられてインドとの交流を今進めておりますし,人員の交流もしております.そのほかに最近は,これはSSATといいまして,The Society for Surgery of the Alimentary Tractというアメリカの消化管の学会でありまして,写真は僕と吉田先生と向こうのプレジデントとかが写っているのですけれども,僕と吉田先生のほうがどうも体格がよ過ぎて,日本人も最近は反省しなければいけないかもしれません(笑).あとはSSATとの交流も,向こうのDDWとの間にミーティングを持っていますので,来年のDDWのアメリカでの本会にも我々が参加することになっております.
 もう1つは,インドとの交流はもう始まっているので,アジアの諸国という意味では,ここにありますAP-SDS(Asia-Pacific Society of Digestive Surgery)という団体もあり,これからの検討かなと思います.
北野
実はこれももう立ち上がっています.もともとATTWというアジアにおける消化器病週間というのがございました.その中で,なかなか外科の立場がはっきりしていない,参加者も少ない,その理由はと考えますと,AP-SDSに参加しているものがISGSという非常に少ない人数の個人会員でございました.ほかのATTWを構成する消化器病であったり肝臓であったり,私が会長をしていますAPSDE(Asian-Pacific Society for Digestive Endoscopy)のものは22か国をメンバーとする学会でございますので,情報が行き渡って参加者が多いということです.それをAP-SDSということでカントリーメンバーを主体とした学会を構築したということでございます.
瀬戸
ということで,アメリカほか,何年か後はアジアにも目を向けて本学会の国際化を目指していきたいということになります.
理事長鼎談

2017年 Annals of Gastroenterological Surgery

瀬戸
先ほど森先生からおっしゃいましたが,昨年,Annals of Gastroenterological Surgeryという英文誌を発刊させていただきまして,初代のEditor-in-Chiefに森先生がついておられます.この経緯や御苦労についてはいかがでしょうか.
消化器外科学会は非常にいい和文誌を持っているのですけれども,国際化という観点からはオフィシャルジャーナルを持ったほうがいいということで,AGSを発刊しようということになりました.私が思うには,学会の国際化でいろいろな人を知り合いを通じて呼ぶという地道な活動は必要なのですけれども,そのソサエティが持っているオフィシャルジャーナルがいいものであるということが何より重要だと思うのですね.例えばAmerican Society of SurgeryはAnnals of Surgeryを持っていますし,Annals of Surgeryは今,外科の中ではトップジャーナルということで,そこに入会するにはかなり厳しい審査が必要で,アメリカの若い先生方はそこを最終目標にして頑張っているという話を聞きます.ですので,地道な活動にプラスして,本当にいいジャーナルを出して,そこに世界じゅうから論文を投稿してもらう,それに伴って学会にも参加していただくというようないい循環をつくり上げるのが何より大事だということで,私の目標にしています.
 現在のところAnnals of Surgeryがトップジャーナルで,Impact Factorは8を超えているわけなのですけれども,次に,JAMA SurgeryというArchives of Surgeryから衣がえしたジャーナルなのですが,JAMAという名前がついただけでいきなり3点台だったのが8点台にImpact Factorが上がる,そういう現象もあるのですが,いずれにしましても私たちは世界のトップを目指さないといけないと思います.そのために,私ども調べたのですけれども,2016年に日本からAnnals of Surgeryに掲載された論文が12編あります.それからJAMA Surgeryには2編,British Journal of Surgeryには12編ということで,大体一流のジャーナルには日本から10編前後が投稿されています.これをぜひAGSのほうに投稿していただくように持っていかないといけないと思いますけれども,若い人たちは当然,Impact Factorが高いジャーナルに論文を出したい.その気持ちはぜひ尊重したいわけなのですが,その一方で,私たち評価する側が日本発の英文誌をもっともっと価値を高める,そういう認識を持たないといけない.例えば大学の教授選とかでImpact Factorが問題になるのですけれども,そういうことは重要なのですが,それに加えて,私たち判断する側が日本発の英文誌にきちんと出していることを評価する姿勢を示していかないといけないのではないかと思って,私は今,日本学術会議でも日本発の英文誌をもっともっと大事にするような雰囲気をぜひ国を挙げてやりましょうという提案をしているところであります.
瀬戸
ありがとうございます.この発刊に当たっては遠藤格先生,島田先生にも非常な御尽力をいただきました.このタイトルページの絵も議論がありまして,これは確かにメスとか,どちらかというとトラディショナルな写真なので,もっと未来志向の,例えば腹腔鏡とかそういった絵にしてもいいのではないかという議論もあったのですけれども,外科医っぽくて,このほうがいいのではないかという議論をしたことを今思い出しました.おかげさまで,実は6月1日にこのAnnals of Gastroenterological SurgeryはPubMed Centralに収載されることになりましたので,お手元のコンピュータからPubMedにアクセスしていただくと,瞬時にここに掲載されている論文が見られるようになりましたので,今森先生がおっしゃられたようにどんどんいい論文,すばらしい論文を御投稿いただければと思います.